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オレとあんたの裏の顔
漫画の没ネタの一つ。6.0後(5.3以降に付き合い始めてから暁月を経て・・・)
「したたかな賢人」の派生です。
ひとには、誰にでも裏がある
「・・・あれ、ラハじゃないか、どうした?」
ラストスタンドの付近にある東屋・・・その低い塀の上に器用に体を預けながら、いつもと変わらない優しい声音で、その人は俺を呼んだ。
そう、この人にだってーー
「討伐、終わったのか?」
「ん?ああ・・・まぁ、な」
お疲れ様、と労うと彼は微笑みながらありがとうと応えた。
月明かりと、静寂、そして少しのブランデー
この人が好きな物、これは最近気づいたこと。
俺たちの関係が、仲間から恋人という呼称になってからの話だ。
酒を味わい、涼しい風の吹く場所に座りながら月を眺めることが・・・一つの大きな討伐任務を終えた後で、この人が行う小さな儀式。
それは仲間への労いか、弔いか、それとも勝利の盃をただ味わっているのかは推量れないが、内に秘めるその熱を徐々に覚まそうとしていることは、微かに感じ取れた。
「あっちで音楽が聞こえるな・・・」
「うん、昼に行商をしていた一団の中に踊り子がいたらしいんだ、今は宴会中みたいだな」
「シャーレアンも少しずつ変わってる気がするな。あぁ、俺この曲・・・好きだ」
風に乗って流れる音楽を聴きながら、彼は軽く溜め息を吐きながら、もたれている壁へ後頭部をこつんと当てて空を仰いだ。
他愛無い会話、僅かな間。
ーーこの人がよくやる常套手段。
俺たちに自分の戦果の詳細を語り聞かせたく無いゆえの回避行動。
これも、気づいたのはつい最近のことだ。
今日は一段と傷が多い気がする
きっと、俺には想像もできない戦いをしてきたのだと思う。
なぜ、この人はそんなにも自分の輝かしい戦いの軌跡を秘匿したがるのだろう。
仲間に余計な心配をさせまいとするため?
それとも野蛮な争い事の話はするべきではないと気を回しているのだろうか。
いずれにせよ、彼は俺たちには明かさない顔を持っていることは、俺にも理解できる。
するりとその腕に触れてみる
しなやかな白い肌には自ら施したのか、治癒したての痕が残っている。
俺はその痕に更に術を上書きした。柔らかく暖かな光が淡く明滅し、再び静寂が訪れる。
腕の治癒を終わらせ、そのまま手首まで皮膚をなぞり、そっと持ち上げて指先にキスをしてみる。
「無事で・・・よかった」
心からの言葉だ。
勿論好奇心は、ある。
この人の裏側を知り、それがどんなものであっても、抱いた想いが失われるとも思わない。
冒険とは危険と隣り合わせ、そのスリルを楽しいと思えなければ、きっとそもそも旅を続けることなど出来ないはず・・・だからこの人はきっと、骨の髄まで冒険という二文字に心酔しているだけなのだ。
それを共有出来ないことが少しだけ、ほんの少しだけ寂しくもある。
だが、今の俺はただこの人が生きてこの場にいて・・・俺のそばで笑っていてくれることだけが、何より嬉しいからーー
だからこそ、この人の望むまま
この人が"帰ってきてくれる場所"であり続けたいと思う。
口付けた手にそのまま頬擦りし、再度指先に・・・そして手の甲に、生々しい刃の傷とは違う見えない痕をつけていく。
ふと、彼の顔を盗み見ると
何一つ表情は変化していないのに、その琥珀のようにとろりとした色の瞳だけは暗闇の中で鋭く輝きを放っていた。
微かに感じられる、確かな情欲ーー
俺はもうその小さな変化を見逃すことはない。
「なぁ・・・」
少しだけ、細く呼びかける。
耳が微かに震え、その瞳は俺を捉えた。
「あんたに、もっと触れたい・・・」
「ラハ・・・」
困ったように僅かに眉を下げ、彼は手を引いた。
けれど、俺はそのまま前へ進み出てその首筋に腕を回す。
「ダメか‥?」
少しだけ目を伏せ考えた後、ゆっくりとそのまま目を閉じた。
許されたのを合図に、俺は英雄との距離を更に狭める。
啄むようにキスを繰り返し、薄く開かれた口内へと踏み入った。
最初は遠慮がちに、けれど次第に深くなるこの人のキスは
いつだって俺の頭を朦朧とさせる魔力を抱えている。
そうーーこの人は、戦いを終えた後・・・俺の誘いを拒まない。
これもまた・・・最近知ったことだ。
戦地から帰る者を待ち望んでいた相手との逢瀬。
この行為は、再会を喜ぶ恋人達が無事を確かめ、また愛を確かめ合うためのそれに他ならない。
優しいこの人は、俺の気持ちを汲んで、俺の我儘を許してくれる。
そして、そんな時に交わされるこの人との密事は、戦いの余韻が少し残ったまま、いつものそれより少しだけ激しく濃く刻まれる。
俺の英雄は自分の内にある熱を、人知れず隠そうとする。
けれどそれを俺は掬い取る・・・この人の熱を、生きているという悦びを取り零さないために。
これから与えられる快楽を思いながら、俺の背はぞくぞくと粟立った。
これは最近、俺自身が気づかされた、己の一面だ。
生きていてくれて嬉しいという切なる思いと
・・・この人を自分だけのものにして、この人が俺だけを見て激しく愛してくれる瞬間を狙い伺う浅ましい一面。
これはお互い様なのだ。
だって、あんただって自分の裏を隠してるんだから
俺も一つくらい秘密があってもバチは当たらない・・・そうだよな?
ひとには誰にでも裏がある。
この人にも、そして俺自身にも。
ブランデーのように芳醇で、ほろ苦い情欲に酔いながら過ぎていく夜ーー
月はその裏側を隠しながら、今も柔らかく微笑み続けている。
オレとあんたの裏の顔
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