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英雄に媚薬を盛る話
興味本位で媚薬 を入手したらポーションと間違えてうっかり英雄が飲んじゃった話。
初夜は終えてるけどまだちょっと距離感がある光ラハ。ラハが誘い受けに目覚めます。
ーーやってしまった、と
小悪党が悪事の言い訳に使うような台詞を、頭の中で思い浮かべた。
オレの目の前には壁に背を預けながら上下に肩を揺らして息をしている英雄がいる。
「っ、ラハ・・・おれ、なんか・・・」
その表情は焦りと、微かな情欲の色を見せていた。



発端は、市場でふと見つけた薬だった。
立ち寄った出店の一角で扱われていたその薬に、オレは引き寄せられてしまった。
一本で相手を魅了する、などといかにも胡散臭い謳い文句が遠回しに書いてあったのだが、それはシンプルに言えば「媚薬」である。
羞恥心や諸々の抵抗感はあれど、効果への興味を抑えるには足らず、一応正規の許可を得て出されている店舗だったのもあり…オレは結局手を出してしまったのだ。

そんなものを手に入れて誰に使うのかと問われれば、それは勿論現在は恋人という関係に進展した「彼」の他にいない。

彼ーーオレの英雄は普段とても忙しく各地を駆け回っていて、基本的には同じ場所に留まっていない。
生き生きとしているのはとても喜ばしいことではあるが、恋人として同じ時間を過ごす頻度は多くないのが現状だ。
その分、たまに会った時くらい睦まじくしていたいと思うのが恋人という関係の常だろう。
しかし思うに・・・彼はどうにもオレに対して優しすぎるふしがある。
オレがしたいということは全部付き合ってくれるし、一緒にいたら食べ物も何もかもを用意してくれる。

けれど・・・
例えば、キスをしたり、身体を重ねたりする行為を、向こうから求めてくれる頻度が・・・圧倒的に少ないのだ。
本当はしたいのに我慢しているのか、それとも元々の性格が起因しているのか
いずれにせよオレにしてみたら、単刀直入に言うとそう、「欲求不満」に陥りかけていた。

ゆえに、オレはそのポーションを手に入れてしまい、用法通り飲料に混ぜてみようと思ってしまったのだが・・・

「っ、ラハ・・・おれ、なんか・・・身体が」
少しだけ目を離していた隙に、オレの目の前には壁に背を預けながら自室で息を荒くしている英雄がいる状況になってしまっていた。

小机の上には例の瓶が空の状態で置いてある。その状況にオレは自らが引き起こした事であるにもかかわらず動揺を隠せず立ち尽くした。
彼に対する予想外の効き目に、興味本位で手を付けてしまったことに若干の罪悪感を禁じ得なかった。

「あ、あの・・・大丈夫か?」
ああ、と返しながらも彼の息は浅く荒々しいままだ。
「あー、買ったポーションに粗悪品、でも混ざってた、か・・・参ったな」
「・・・!」
壁に寄りかかっていた彼はふらりとよろめきながらベッドへ腰かけると、困ったように笑いながら空き瓶を流し見た。
見ると空き瓶の近くにはとても似た柄の瓶に入れられたポーションのストックが置かれている。
どうやらこの人は、オレが邪念に駆られて用意してしまった薬だということに気づいていないようだった。
「・・・っ」
引き続き続く罪悪感に苛まれながら、オレは彼を横目で観察してみる。
顔がほんのり赤く染まり、気持ちを落ち着けるためかゆっくりと深く息を吐いている様子だが、あまり効果がないように見える。
「・・・症状は?」
「っ・・・体が熱くて、けど内側からじわじわ悪寒がする気もする。痺れてるような、いや、違うか・・・これは」
そこまで言ってから、彼は口を閉ざした。
少し間を開けて、髪をくしゃくしゃと掻きながら、ため息と共にオレを呼んだ。
「っラハ・・・悪いけど、少し一人にしてくれないか?少し気分が・・・」
「え?けど、そんなあんたを放ってなんて」
「いいって、今は俺・・・」
そう言って引き下がれるわけがない
こんな状況の英雄はあまりにも、放っておき難い。
いつも落ち着いていて滅多なことでは動じない印象だったこの人が、珍しく弱っている。オレの前で、これ以上ないくらいに。
その様からはもはや目が離せない。否、離したくないと思った。
そもそも、元はと言えばオレのせい・・・いや、オレが仕組んでしまったものなのだから。

「いや、だから今は触るな・・・って、っ!」
オレは少しだけ強引に彼の肩を掴んでみる、布越しに触れただけで、彼は辛そうだった。
ああ、間違いない
確実に効いている、それもかなり強めに
「疼くのか・・・?身体が」
普段あまり動きを見せない彼の耳がぴくりと跳ねた。オレは彼の胸板に手を添え、上からゆっくりとなぞってみる。
「触れられると、ゾクゾクするか?」
彼は困ったように目を逸らし、こくりと小さく頷く。苦しそうに眉を寄せ、息を必死に抑え続けている様子を見ていると、オレも次第に身体の芯に熱が上って来る感覚を覚えた。
「もしかして、あんた・・・今どうしようもなく、セックスがしたいんじゃないか?」
「!」
そんな直接的に言われれると思わなかったのだろうか、彼はその瞳をこちらへ向けた。
金色の飴玉のようなそれは、いつもより妖しく濡れていて、吸い込まれそうなくらいに綺麗だと思った。
これはあくまで比喩表現だが、きっと蜂蜜のように甘い味がするに違いない。

「ラハ、帰れ・・・このままだと俺」
つい見惚れていたオレの肩を軽く押し、彼は拒絶の意思を示した。
しかしその力は弱々しく、やっとの思いで行動しているようだった。
「なんでだよ・・・オレたち付き合ってるんだろ?そういうことなら、抱けばいいじゃないか」
そうなのだ、オレ達は今は恋人同士。既に身体を重ねたことだって、ある。
それを今更何に遠慮しているのだろうか。不思議でならなかった。

彼ーー英雄は少し間をおいて呼吸を整えた後、ゆっくりとその理由を口にした。

「だって・・・こんな、よくわからない薬で増幅された感情に流されてお前に触れるのは、なんか違う気がする・・・っていうか」

そう言って彼はまたふい、と目を逸らしてしまった。
そのあまりの忍耐にオレは思わず黙って暫く彼を見続ける。
「・・・あんた、変なところで律儀っつーか、優しいよな、ほんと」

そうだ。オレはこの人のそういうところが好きだ。
普段は誰より強くて・・・その瞳は、意志の強さは、他にない。
多くの武勇伝を持ち、周りから慕われる一見完璧に見える英雄は、その実どこにでも居そうな平凡さを兼ね備えていて、手が届かないのにこんなにも近くにいる、不思議な人だ。
同時にこの人が、言うなれば他人に極力踏み込んでこようとしないところがあるというのにも、薄々気づいていた。
それはこの人なりの処世術なのか、それとも過去にオレの知らない何かがあった故なのか。
真実は今は推し量れない。
そういう表裏を感じるところが、オレを尚のこと引き寄せているとも言える。

けれど…せめてこんな状況の時くらい、頼って、縋ってくれたっていいだろう。
今は、その変に優しく余裕ぶるところが堪らなく焦ったくて、どうしようもなく腹立たしい。
その瞬間、頭の中でぱちん、と音がして、オレの中の何かが吹っ切れた気がした。

「なら、もういいよ…オレがやる」
「は・・・ラハ?、!?」
聞き返しながら英雄は再びこちらに顔を向けた。
オレは隙を見て英雄の目元を布で覆い隠す、そうすることで今からしようとすることを阻止されるのを防ぐために。
そのまま素早く、彼の腕を彼自身の背に回させ、手首を軽く縛る。
「ちょっと、おい!」
状況が分からず混乱している彼をよそに、オレはそのままベッドに腰掛ける彼の太腿に馬乗りになった。

彼はされるままに座っている。ごくりと喉を鳴らし、こちらの一挙手一投足を窺っているようだった。
今のオレの頭の中は英雄よりほんの少しだけ優位に立てているかも知れない状況に少し浮き足立っていて
この先どうしようか、どうしてもらおうかということだけで満たされていて、つい先程までの罪悪感は消え失せていた。

濃紅の髪に軽く指を通すと、じわりと汗ばんでいる。
そのまま頬へと手をずらすと、彼の緊張感が目を覆う布越しに伝わって来た。薬のせいで肌が敏感になっているせいで、それだけで小さく息が漏れている。
その隠されている瞳が誰を見つめているのかが分かる。
それだけのことに堪らなく興奮した。

いっそのことこのまま隠しておけたなら、この黄金はオレだけのものになるのだろうか。
ーーまぁ、それは冗談だけど。

「お前・・・なんで突然、こんな」
焦りと動揺に掻き乱されながら、彼はその問いかけを絞り出した。
何故、そんなことは明白だろう
「オレを欲しがるあんたが見たいから」
そう言って直後、オレは彼の口を塞いだ。目隠しをされ、何をされるか分からない状態の英雄は、身体を強張らせているが、そんなことは全く意に介さずオレはキスをやめなかった。
「なぁ、オレはあんたを全部受け入れるよ、だから…あんたも」

――オレを、もっと欲しがってくれ。

うわごとのようにそんなことを囁きながら
彼の首にしがみつき、吸い付いて、息も忘れるほどに激しく口の中を犯し、はしたなく溢れる唾液すらも嚥下していく。
最初は驚いていた彼も、やがて緊張感が薄れ、柔らかく舌を伸ばし始めた。
そんな変化に背筋が粟立った。
きっと今・・・オレはどうしようもなく顔が綻んでいるだろう。
自分の中にもこんな嗜虐心に似た感情が眠っていたなんて・・・思わなかったのだ。

もしかして、キスで彼から媚薬を受け取りでもしたのだろうか。
もしくは、オレは最初からとっくにこの英雄に狂っていたのかも知れない。

されるままに受け入れる英雄を腕に抱きながら、深いキスを繰り返し
この後も続く倒錯的な行為を思い、オレは微かに身を捩らせた。

媚薬
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